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むかしむかし・・・。
おとぎ話の世界よりももっとずっとむかしのはなし。
とある国のとある城に、それはそれは美しい姫がおりました。
渓谷を流れる滝のように豊かな黒髪も。
愁いを帯びた艶やかなその瞳も。
小鳥がさえずるような声も。
真珠のように白い指先も。
姫君のどこをとっても見ている者を幸せにするような美しさでした。
その美貌は鏡のような湖の水面に映る月にも負けないと評されるほどでそれ故、巫那裳姫と呼ばれておりました。
やがてその姫も成人し、裳着の儀を迎えました。
婚礼の儀まであとわずかに迫った桜が咲き乱れる、春のある日。
姫は方違えでこの国で一番の『桜』の木の下を通ることになりました。
女房達の噂ではよく聞いていた『桜』。
それを自分の目で見ることができて姫は非常に喜んでいました。
古く、枝振りもたわわなこの枝垂れ桜は見る者をすっかり魅了してしまう何かを備えていました。
普段、あまり外に出ることのない姫が初めて言ったわがままでした。
風に揺れ、花びらを落とす『桜』に誘われるように牛車を止めさせ、乳母と共に姫はその桜の根元に降り立ちました。
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