1.プロローグ

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1.プロローグ

 ヒカルは海側のベランダにいる。祖父のロッキングチェアに身をゆだね、そよ風を受けていた。  今日の大樹浜は、風がおだやか。太平洋の東南から寄せる波も、白く砕けるのはのは砂浜近くだけ。  窓越し、リビングからピアノの演奏が流れる。  ピアノは母、尾菊留美の遺品。曲は母の遺品の楽譜から。今日は日本の作曲家、植松伸夫が弾かれていた。有名な曲ではない、とあるゲームのオープニングで使われたとか。やさしいが、少し悲しげな旋律だ。  演奏しているのはロボットのリリ。こちらは父、ポール・トウの遺品。父が最初に作ったロボット、母をモデルにしている。あまりにそっくりで、いつもは大きなサングラスで顔をかくしている。  尾菊財団は太平洋に面した大樹浜に、幅3キロ奥行き2キロの土地を所有しており、その一角に尾菊家はあった。  22年前、ポール・トウ=フェブリは宇宙から来た。でも、地球人である。  今から7000年ほど前、宇宙の彼方からパノレタ星の開拓団が地球に来た。彼らは10万人以上の地球人を本星へ送る、奴隷として。100年ほど過ぎて、パノレタ人は相争う。わずかな遺跡を残して、地球のパノレタ人開拓団は全滅した。  約1000年前、パノレタの星で異変が起きた。恐ろしい伝染病が蔓延して、パノレタ人のほとんどが死んだ。  が、奴隷だった地球人は死ななかった。奴隷の人口は1億人を超えていた。  立場は逆転して、地球人がパノレタの主役となる。元奴隷の中から、皇帝を自称する者が現れた。奴隷社会を再構築して、パノレタの星を支配した。  皇位継承の争いに敗れ、追放同然にポール・トウは地球に来た。パノレタの優れた科学と技術を持って来た。  ポール・トウは地球に残されたパノレタの遺跡を調査した。  尾菊財団が所有する北海道の土地に、保存状態の良い遺跡を見つけた。そして、7000年前の機械群はよみがえった。  ポール・トウは尾菊財団の娘、留美と恋に落ちる。やがて、男の子が産まれた。  尾菊ヒカルと名付けられた。  遺跡調査と技術の復元、幸せな時間は突然に終わる。  10年前、パノレタ皇帝はポール・トウを本星へ再召喚した。母、留美は共に行った。  尾菊ヒカルは地球に残された。  ポール・トウが作った6体のロボットも、一緒に残された。  そして・・・1年前、パノレタから使者が来た。彼らには故郷である地球との国交を求めて、星の彼方からやって来た。  静止衛星の高度に全長500メートル級の宇宙船を置き、大使館とした。必要があれば、大使が地上の空港にに降りて来て、あれこれと交渉を行う。世界各国がパノレタ大使を招き、歓迎の記念式典が行われた。  尾菊ヒカルは18才になった。父と母の消息は不明のままだ。
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