太陽のヴァイオリニスト

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 男は手を止めた。同じ調べが聴こえてきたからだ。  遠くから確実に、あの歌声が近づいてきた。  やがて、男の前で歌声が止まった。 「私の歌を覚えていたのですね」  あの女性の声がした。瞼の裏に暖かい温もりが感じられた。 「嗚呼、貴女に会うために生きてきました」  男は感激にむせび泣いた。 「残念ですが、もうお別れです。二度と会うこともないでしょう」 「待ってください。せめてお名前を聞かせてくれませんか」 「私は戦争の女神。さようなら」 「待ってくれ! 俺も連れて行ってくれ!」  男は泣き叫んだが、歌声は去っていった。  しかし、戦争の女神が消えても、太陽の詩は鳴り止まなかった。  全世界から集まった数十万人の人々が太陽の詩を口ずさみながら、男を護るバリケードになっていたからだ。  戦争は回避された。  男は太陽のヴァイオリニストと呼ばれ、反戦のシンボルとなった。  太陽の詩は平和のテーマとなり、永遠に歌い継がれるようになった。    終
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