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「す、すみません!」 ある日の午後、営業5課に、その声は響いた。 どうやら、ある社員が、ミスをしたらしい。 「お前、何やってんだよ!基本的なことだろ!できてなくてどうすんだ!」 課長の戸田 謙一が、野太い声を轟かせていた。 怒られて、よほどショックだったのか、項垂れたまま自席に戻った後輩を、僕はかわいそうに思って、声をかけた。 「桐吉君、ちょっとこっちに」 「は、はいっっ!」 また、怒られるのだろうと身構えている彼に、僕は言った。 「そこ、大変だよね、まとめるの。でも、その方法じゃなくて…」 今回はダメだったけど、彼が、次に生かせるように、僕は僕なりに助言をした。 「は、早宮さん、ありがとうございます!」 「ううん、僕も、入社した当時はミスばっかりしていたから。何事も、経験を積むのが大切だから、気を落とさずに頑張って」 「は、はい!」 さっきとは変わって、元気のある顔に変わって、ホッとする。 彼が去っていくのを眺めていたとき、 「あ、あの、早宮さん」 と声がした。 「すみません、この資料、合っているか、確認してもらえますか?」 「もちろん、いいよ」 そう言いながら、僕は目の前の彼女を見た。 中松優乃。23歳。約1年前に、この日海商業会社に入社してきた。 真面目な性格で、いつも仕事にひたむきだ。 そんな彼女は、あることで、社員からの注目を集めている。 それは― 「中松ちゃん、昨日より身長伸びた?気のせい?」 「気のせいですよ、滝さん。高校のときから、全く伸びてないですから」 そう、彼女は他の社員と比べて、圧倒的に― 身長が、低かった。 身長140㎝という、小柄な体は、社内でもよく目立つ。 彼女は、そのことを、とても気にしているようだが、僕は、とても可愛らしいな、と思っている。 「うん、大丈夫だよ。整理されていて、すごく分かりやすい」   資料を読み終えた僕は、彼女にそう言った。 「あ、ありがとうございます」 僕から書類を受け取った彼女は、喜びの表情を浮かべながら、自席へと戻っていった。
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