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1.
「す、すみません!」
ある日の午後、営業5課に、その声は響いた。
どうやら、ある社員が、ミスをしたらしい。
「お前、何やってんだよ!基本的なことだろ!できてなくてどうすんだ!」
課長の戸田 謙一が、野太い声を轟かせていた。
怒られて、よほどショックだったのか、項垂れたまま自席に戻った後輩を、僕はかわいそうに思って、声をかけた。
「桐吉君、ちょっとこっちに」
「は、はいっっ!」
また、怒られるのだろうと身構えている彼に、僕は言った。
「そこ、大変だよね、まとめるの。でも、その方法じゃなくて…」
今回はダメだったけど、彼が、次に生かせるように、僕は僕なりに助言をした。
「は、早宮さん、ありがとうございます!」
「ううん、僕も、入社した当時はミスばっかりしていたから。何事も、経験を積むのが大切だから、気を落とさずに頑張って」
「は、はい!」
さっきとは変わって、元気のある顔に変わって、ホッとする。
彼が去っていくのを眺めていたとき、
「あ、あの、早宮さん」
と声がした。
「すみません、この資料、合っているか、確認してもらえますか?」
「もちろん、いいよ」
そう言いながら、僕は目の前の彼女を見た。
中松優乃。23歳。約1年前に、この日海商業会社に入社してきた。
真面目な性格で、いつも仕事にひたむきだ。
そんな彼女は、あることで、社員からの注目を集めている。
それは―
「中松ちゃん、昨日より身長伸びた?気のせい?」
「気のせいですよ、滝さん。高校のときから、全く伸びてないですから」
そう、彼女は他の社員と比べて、圧倒的に―
身長が、低かった。
身長140㎝という、小柄な体は、社内でもよく目立つ。
彼女は、そのことを、とても気にしているようだが、僕は、とても可愛らしいな、と思っている。
「うん、大丈夫だよ。整理されていて、すごく分かりやすい」
資料を読み終えた僕は、彼女にそう言った。
「あ、ありがとうございます」
僕から書類を受け取った彼女は、喜びの表情を浮かべながら、自席へと戻っていった。
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