ヤバめの世界

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 まっすぐにこちらを見る紫色の瞳が揺れている。 「寂しくなるわ。いつでも戻ってきていいのよ」  細い指が差し出される。 「卒業だから、おめでとうって言わなくちゃね」 「……ありがとう」  小さな手を握りしめると「わーずるい!」とロアとマルルの声が重なった。 「何だよ!お前らこんな時だけ気が合うのかよ!」  僕は笑って手を振る。 「じゃあ、みんな、元気で。楽しかったよ」 「つき合い悪いな。いっしょにミッションクリアしたかったぜ」 「ハルトがいなかったらつまんないな」  よし、いい展開だ。  もっと言ってくれ。 「でも、卒業って、何から卒業するんだ? ハルト」  ロアは甲冑をがしゃがしゃさせながら「まあいいけど」と返事に困っている僕の横で「友情の証に剣を交換してくれよ。確かハルトは黄金の剣を持っていたよな」と抜け目ない。 「ああ、いいよ。今持っている装備はみんなくれてやる」  だってもう、持っていたって使うことはない。  今まで貯めていた金貨の入った袋をミルメアにそっと渡す。 「いいの?」 「もちろんだ。ミルメア。はやく自分の国に戻れるといいな」 「行かないで、と言ったら残ってくれる?」  どきりとした。  ぐらりと心が傾いていく。  僕だって本当は……。  でも首を横に振った。 「それは、無理だ」  少し、いやかなり名残惜しい。  だけどもう時間がない。  僕はそのまま画面からフェイドアウトした。
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