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ハリーは玉座に座り、両腕を広げ、背伸びをした。
「……じゃあ、逃げちゃっていいよ、みんな」
「は、はい?」
「僕だけ残して、みんな逃げて」
「しかし……」
「大丈夫。これで、全部終わるから。全軍にも、撤退するように呼び掛けて」
誰もいなくなった城に、砂埃をあげながら、大軍を率いた男が二人、突撃してくる。
その様子に、かつての面影を重ねたハリーは心の中でつぶやいた。
──よかった。これで、二人はまた手を取り合ってくれた。
そんなことを思うと、自然と笑みがこぼれる。
城内に敵軍がいないことを確認すると、軍隊を残し、二人の男がハリーのいる大広間の扉を開けた。
「よう、ハリー。覚悟はいいな?」
「ハリー、あなたは、私たちから見たら敵軍の総司令。これが意味することは、わかりますね?」
ジースは指の関節を鳴らし、エレンは胸元からナイフを取り出した。
「うん……わかってる。だから僕から、最後のお願い、聞いてくれるかな?」
ジースとエレンは顔を見合わせた。
「なんだ、言ってみろ」
「言ってみなさい」
「あのね……二人には……」
「なんだ? 早く言えよ」
「やっぱりいいや。言わなくても、きっと伝わってると思うから」
──僕たちは、家族なんだから。
ハリーは胸元から、忍ばせておいたナイフを取り出した。
目を閉じると、不思議と走馬灯のように、あの頃の記憶がよみがえる。
グルグルと回る世界、それはやがて溶け合って、一つになっていく。
そのあと見上げた空の青さは、どこまでも美しかった。
ハリーは目を閉じたまま、その場に倒れ込んだ。
仰向けになり両手両足を広げると、最後に、少しだけ目を開けてみる。
青空だ──。
小さく微笑んだハリーの目蓋の上には、青い花びらがひらりと舞い落ちていた。
〈終〉
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