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軍学校の朝は早い。
そのうえ演習が大規模になり、数日に渡る際は、不規則な生活を余儀なくされることもある。
生徒たちにとって、睡眠は体力を回復させるためのものだ。少しでも長く目を閉じていたいと、誰もが願いながら眠りについている。
そんな中、ハリーはまだ外が薄暗い時間に目を覚ました。小さな明かりを灯し、机に置かれたノートを開く。
昨日習った戦術の応用を復習し、そこからもう一歩、先を考える。
自分なら、どうするか。
どうすれば、最小限の力をもって、相手を制圧できるのか。
どうすれば、早期に決着をつけることができるのか。
どうすれば、最小限の被害にとどめることができるのか。
自軍はもちろんのこと、敵軍さえも──。
「相変わらずですね、ハリー。戦はそんなに甘くはないですよ」
「あ、エレン。おはよう。起きていたんだね、気付かなかった」
周囲の音が聞こえなくなるほどの集中力に、背後からしばらくノートを覗き込んでいたエレンは、微笑んだ。
そこへ、ベッドの上から低い声が話しかけてくる。
「おう、ハリー。おまえも筆ばかり握ってないで、武器を握れ」
「あ、おはよう、ジース。昨日の疲れはとれた?」
「あんなの遊びだろ。勝ち抜き戦なんてしなくても、全員まとめてかかって来た方が、よほどやり甲斐がある」
ジースは背伸びをすると、屈強な体の関節を鳴らした。
ベッドがそれに合わせるように、ギシギシと音を立てる。
三人で同じ寮に住み始めたのは三年前。
軍隊の中からの、選りすぐりの講師陣さえも凌駕すると言われるジースの武力。
開校以来、他に類を見ない怪物と言われるエレンの、武器を扱う技術力。
そして、同年代では大陸一と名高い知力を持つ、ハリー。
三人は性格も出身地も違う。それでも同じ部屋で過ごしてきた中で争いが起きなかったのは、三人の能力があまりに突出しているからだった。
それぞれの能力は、互いに挑んだところで、決して勝ち目のないこともわかりあっていた。
才能もさることながら、それを手にするまでの努力も怠らなかった。
こうして毎朝、他の仲間よりも一足早く起きて自主的なトレーニングを続けてこれたのも、三人で居たからこそできたこと。
完璧な人間などいない。弱音を吐きたいときも、仲間が頑張る姿を見て飲み込んできた。
その友情は絆であり、厚く、固い。
同期でありながら、互いを尊敬し合える関係でもある。
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