4/3 J庭51【サンプル】シロモモ〜禁断のショータイム〜

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***  ネオンで輝く街の中心部を離れ、西の牌楼のほど近いところにシロたちの棲む集落はある。水郷に沿って商店や民家が立ちならび、茶と演芸でお客を楽しませる茶楼や製塩所、臭豆腐やナマズ菜飯をふるまう飯店などで活気にあふれた集落だ。  夜になると多くの商店の軒先に吊るされた赤提灯がともり、水郷の水面にぼんやりと赤を浮かび上がらせる。昼間はカラッとして明るいが、日が沈んだあとは妖艶さを醸し出す。そんな集落が、シロの日常風景だった。  通行人にぶつからないよう、アーチ状の石橋を踏み進める。橋を渡れば、家はすぐそこだ。  ふと視線の先にある黒レンガの家に目をやると、双喜紋が描かれた障子窓の向こうに暖色の灯りが見えた。橋を渡りきる前に家の灯りがついていることに気づき、シロはぱぁっと目を輝かせた。頭上の竹ざるを押さえながら走り出す。  モモ兄、まだいるんだ!  今日は夕方から仕事だとモモは言っていた。自分が帰宅する頃には、きっとモモは家にいないだろうと思っていたのだけど。  喜んで跳ねたせいで、ニンジンを落としそうになる。バランスをとりつつ前へと走り、シロは「ただいま!」と大きな声を出しながら勢いよく家の戸を開けた。  その瞬間、家の中からふわりと甘い匂いがした。いつもモモがつけてる香水とは違う匂い。モモはちょうど仕事に行く支度をしていたらしく、部屋の隅にある化粧台の前に座っていた。鏡の中で目が合うと、優しい声で「おかえり」とほほ笑んだ。  その際にゆるく三つ編にした桃色の長髪から生えたウサギ耳が、手を振るようにしなやかに動いた。艶のある厚い胸板と、筋肉の上にほどよく脂肪がついた尻が見え、毎日見ているにもかかわらずシロは少しドキッとした。 「今日はニンジンが安かったから、五本も買っちゃった」  ドギマギしながら竹ざるを頭から降ろす。 「五本も? お金足りた?」 「うん。ニンジンスープたくさん作ろうと思って」  身なりを整えている大きな背中に言う。モモはふふっと上品に笑った。 「シロは本当にニンジンスープが好きだもんね」 「モモ兄だってボクの作ったニンジンスープ好きだって、前言ってた」 「前じゃなくていつも言ってるでしょ。シロのニンジンスープは世界一だって」  世界一、と言われて、シロの胸に得意げな気持ちが広がっていく。嬉しいと照れくさいが入りまじる。なんて返せばいいかわからなくて、シロはとりあえず「えへへ」と笑いながら鼻の下を掻いた。  「そういえば香水変えた?」  クンクンと鼻を鳴らしながらモモに近づく。モモは鏡を覗きながら、小指で唇にクリームを塗っている。 「変えてない……というか、まだつけてないよ」 「え、そうなの?」  モモの首の後ろを嗅ぐが、やっぱり桃のようないい匂いがする。いつものいろんな花の香りを濃くさせたようなきつい匂いも刺激的で好きだけど、嗅ぎ続けていると鼻が麻痺してくる感じがするからずっとは嗅いでいられない。でもこの匂いは優しくて、ずっと嗅いでいたい匂いだ。
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