真夜中の訪問者

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※※※ 「本当にありがとう、里美」 「気にしなくて大丈夫だって。澪の家からの方が通勤も楽だし。むしろ、助かっちゃうくらいだから。……それより、ちゃんと寝た方がいいよ?」 「うん……」  あれから一週間。  毎日決まって2時23分に鳴り響く音に悩まされ、夜も眠れぬ日々を過ごしていた私。  そんな状況を見かねた同期の里美は、幽霊がいるだなんて戯言を信じてくれたばかりか、こうして心配して泊まりに来てくれたのだ。  勿論、引っ越すことも考えてはいるが、今すぐにどうこうできる状況でもなかった。なにせ、連日の残業やら休日出勤やらで、物件を見に行く暇さえないのだ。  実家に身を寄せることも考えたが、勤務先まで片道三時間もかかってしまうことを考えると、どうしてもその決断はできなかった。 「じゃあ……明日も早いし、もう寝よっか。……おやすみ」 「うん。……本当にありがとう。おやすみ」  今一度お礼を告げると、里美はクスリと笑って瞼を閉じた。  ———————  ——————  ———ドンドンドンドンドン!!    その日もやはり、真夜中に突然鳴り響いた轟音によって叩き起こされた。  驚きに瞳を大きく見開いた里美は、私の顔を見ると口を開いた。 「これが……例の、あの音?」 「っ、うん……」  カタカタと震えながらもそう答えれば、唇を小さく震わせた里美が再び口を開いた。 「本当に……誰も……、いないの?」  誰かが叩いているとしか思えないその音に、里美は私の顔を見つめると小さく瞳を揺らした。 「うん……っ、いない……」  そう口にしてみると、改めて”幽霊”というものの存在に恐怖が増してくる。 「でも……もしかしたら、下に屈んでるとか……。見えないようにし——」    ———ドンドンドンドンドン!!  ———!!!  里美が言い終わる前に、再び鳴り響いた轟音。  その音に驚いた私は、思わず隣にいる里美の手を握った。その手からは明らかに自分のものとは異なる震えが伝わり、里美の恐怖まで私の中に伝染する。 「……っ、ねぇ……澪。確認してみよう……?」  やはりその目で確認しないことには納得ができないのか、里美はそう告げると私の手を引いて玄関へと向かった。  そっと玄関扉に手を触れると、ゆっくりと覗き穴に近付いた里美。 「っ……誰も……、いない……」  そう里美が呟いた——次の瞬間。再び目の前の扉は轟音を上げた。  ———ドンドンドンドンドン!!  『……こ……ろ、……す』 「「ヒ……ッ!」」  小さく悲鳴を上げると、絡れるようにして床へとへたり込んだ私達。  轟音と共に、微かに聞こえてきた呻き声のようなもの。その声が、更に私達に強い恐怖を与えた。  その耐え難い恐怖に涙を流すことしかできなかった私達は、震える身体で互いを抱きしめ合うと、一睡もせずに朝を迎えたのだった。
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