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「このサボテン、『柱サボテン』って言うんだって」
「へえ、まんまだな」
「それね」
沙月はスマホの画面とそびえ立つサボテンを見比べながら検索結果を報告する。
その後ろではクラスメイトの後藤と藤木が「サボテンの棘ってやっぱ痛いんかな」「痛かったぞ」「経験済みかよ」と軽口を交わしていた。部活の新設には最低四人必要、ということで協力してもらった二人だ。
今日はなんとか創設できた『サボテン部』の活動初日だった。
「にしても、なんでこんなとこにいるんだ?」
青空の下に映えるサボテンを見上げながら俺は呟く。ほんとビッグ違和感だ。
「原産地は南米、アフリカだってさ」
「家から近いからってわけじゃなさそうだな」
「八生くんの入学理由と一緒にしたら可哀そうだよ。きっとこのサボテンは夢や希望を持って入学してきたんだから」
「まるで俺に夢も希望もないような口ぶりだ」
「ないでしょ」
「ないけど、まだ」
彼女の言う通り、俺が栄成高校を受験したのは家から徒歩で通える距離だったから、というだけだ。何かを叶えるためじゃない。
だけどまあ今はそういうもんだろう。高校生活ってのは夢や希望を見つける場でもあるんだし。
「このサボテン、花とか咲くのかな」
「あ、ちゃんと育てれば咲くこともあるって」
「ちゃんと、とは?」
「愛情を込めるとか」
「ほう」
沙月の進言により、サボテン部初日の活動は「サボテンに愛を贈ろう」と水をやったところで終了した。
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