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5月5日
最近の若者は、コミュニケーションがなってないらしい。子どもは公園でゲーム、デート中の若者は向かい合ってもスマホばかり触っている。
でも、公園でゲームをするのは誰かを待っている間だけかもしれない。遊べる遊具がなくて暇なのかもしれない。そう反論できるようになった時、少し大人になった気がした。
スマホばかりを触っているカップルも、それが会話の手段かもしれない。ちょうど、俺達みたいに。
『こりないね、Mなの。』
『かもね。新しい性癖。』
訂正。このケースは、男が必死に口説いているだけだ。
『物好きって言われたことないの。』
『ないね。シュミいいって言われる。この見た目だから、何でも似合っちゃうのよ、俺。』
眼鏡の奥のまばたきが、スローモーションに見える。開きかけの唇が、瑞々しい。
『あっそ。』
つれない。打ちかけたメッセージを消して、頬杖をつく横顔を眺める。前髪が外光に照らされて、薄茶色に光る。黙っていたら、眠気が襲ってくる陽気だ。彼女が見つめる外の景色は、どうなっているのだろう。
『手話、勉強しようかな。』
手を伸ばせば触れられる位置にいるのに。惜しいと思うのは、恋だからだろ。
『やめた方がいいよ。』
「なんで」
顔を上げると、目が合った。表情はわからない。拒絶や嫌悪のような苦々しさはないが、笑顔のような柔らかさは見られなかった。呆れ、だろうか。
訳を問おうとスマホを手に取るが、目の前の彼女の方が早かった。入力作業では、彼女に敵わない。
『君にできると思わない。』
『ひどいなー。やってみないとわからなくない?』
打っては消し、打っては消しを繰り返す細い指は、何を言いたいのか。文面では軽口を叩いたものの、内心では不安と冷や汗でいっぱいだった。
『かもね。』
ひとつ息を吐き出して、指先の震えを抑える。
『じゃあさ、教えて。』
『いやだ。』
がつん、と衝撃に襲われる。苦しいのは、胸なのか、脳なのか。
『ニブイって言われないの。』
「なんで」
長い睫毛を伏せて、鼻でゆっくり息を吐き出した。これは、呆れ、だろうか。
『こりずに付き合ってる私って、やっぱりシュミ悪いのかもね。』
俯いた顔の赤さに、期待してもいいのだろうか。
手話の日
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