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第01話 プロローグ
「きろ……起き……起きろって」
夢の世界から引き摺り出されると、慌てて目を覚ました一人の青年は辺りを見回すと、幼馴染の友達に起こされたと自覚する。
「かわいい女の子とハーレム築いてる夢を見ていた」
短い春休みを幼馴染と無駄にしている、神代渚は、ファンタジーゲーム・ファンタジーライトノベルにハマり夜ふかしが増えた。
「ハーレムもいいけど、一人の女を愛せるのが一番じゃないか?」
芝生から立ち上がり、爽やかスマイルを見せつけた来栖龍司は彼を立ち上がらせ、近くの移動販売に向かった。
「夢がないな、ファンタジーなら一人に縛られる事もない。好きな数だけ平等に愛し合えるチャンスがある。朝ご飯にベーグル食べようぜ」
「人がたくさんだね」
アメリカンなドーナツ&ベーグルを販売しており、女性の若者達が可愛く写真に撮りSNSに上げている。
白色のパラソルベンチに多くの女性同士の友達が、席を埋めていたが何とか買って座る事が出来た。
「チョコベーグルが一番美味いな、一口食うか?」
ドーナツより一回り大きい、ベーグルを食べながら飲み物で喉を潤した渚は満足そうにしていた。
一口千切って上げようとしたが、手で遮られて貰う素振りは無かった。
「ベーグルより高校はどうするんだよ? 落ちたんだし次を見つけないとどうするんだ? 学校に行って二次志望校の受付をしないと!」
龍司は渚のスマホを奪い取り突きつけた画面には、高校不合格の通知知らせだった。
ファンタジーな世界に現実逃避するのもいいが、そろそろ現実と向き合って次の事を考えろと言わんばかりに攻め立てる。
一口上げようと千切ったベーグルだったが、パクッと自ら口に放り投げた。
「ちょっとくらい現実逃避しても良いだろ。お前は高校に受かったんだろ? どこだっけ?」
当然受かったと思っていたが、何処を受けたか思い出そうとしても心当たりは当然なかった。
AO入試を出願したとも聞いてない、誰かと一緒に受けたとも聞いてないし、渚の志望校で入試試験を受けた覚えもない。
「いや、僕も受けたよ。人前ででは言えない事だけどね」
「人前では言えない……わかった、『裏口入学』だな? そっちは財閥の息子だし。別に悪いとも思ってないよ、金の使い道はそれぞれだしな」
「勝手な誤解はやめろって、僕達は幼馴染なのに信じられないのか」
渚は大事な部分を周りに見えない様に、口パクで強調して伝えても逆に見損なったと言わんばかりに、呆れられてしまった。
大手企業の父を持つ龍司の家は大富豪であり、複数人の住み込みメイドまでいて、龍司専用のメイド・シェフまでも雇われている。
金持ちには定番の黒い噂の真実は、誰にも分からず金の力で揉み消してるともネットにあるが、それも噂の一つにしか過ぎない。
龍司に近寄ろうとする女子、女性教師も含めると数知れず、金銭目的というのが、流石の渚もドン引きしていた事もあった。
「人には言えない事って言うのは……分かった。誰にも言わないって約束するなら教えてやる」
「幼馴染の仲として、お口チャックだ!」
これまで幼馴染として、お互いの誰かに知られたくない秘密も全て守って来た証としての功績のおかげがあり、渚は唇を横にズラしたらジッパーで閉める動作を真似する。
「じゃあ教えるから、付いて来てくれ」
「わかった」
食べ終わった包み紙をゴミ箱に捨てて、二人は公園から出たら運転手付きの高級車が待機しており、後部座席に乗り込む。
プライバシーを尊重しているのか、運転手には聞こえない様な黒色の襖が閉じられた。
街中を走る高級車はスモークガラスとなっていて、外からも覗き込む事は出来ずになっていた。
「これからとある場所に向かう前に……魔法やファンタジーは空想の物だと思ってるよね?」
「そうだろ、だから俺は現実逃避したいんだよ。学校に行って二次志望校の受付するんだろ?」
今更改まって何を言うのかと思い、緊張していた系が切れた渚は現実には戻りたくないが、手助けしてくれる友達の為に現実を見ようと思い直した。
「僕は確かに高校を受けて合格したよ。でも普通の高校じゃない。人間世界から乖離された場所にある……」
しかし、道は明らかに学校には向かっておらず、知らない中路に入って行き違和感を覚えた。
近道でもこんなクネクネした場所は来た事もなく、龍司そっちの気で窓ガラスを下げて、正面を見ると壁になっていた。
「運転手さん!? 前は壁なんですけど! 危ないって、お前からも何とか言えよ」
「窓は閉めてて良いから大丈夫。魔法世界にある。魔法学園だよ!」
高級車がアクセル全開の猛スピードを出すと、衝突するはずの壁を透過してしまった。
そこは海外寄りだが、アメリカ、ニューヨーク、イギリス、シカゴ、カナダそのどちらとも言えない場所になっていた。
通りを歩くのは様々な人種の人間がいて、海外旅行に来た爽快な気分を味わえた。
「ここは何処だ? 俺は危険な薬でもヤッたのか? まだ夢の中か?」
通りの店は様々な言語で書かれた看板があり、防具屋・武器屋・アクセサリーショップ等が外のショーケースから丸見えだ。
空飛ぶホウキ&専用シューズがショーケースに飾られており、空を見上げた。若者達が専用シューズでホウキに引っ掛けてサーフィンの様なスタイルで飛行移動している姿を見た。
「無限に広がる多元次元の一つ『Earth000』と言って、魔法と科学が同時に発展した世界と言ってもいい」
「やっぱり世界は一つじゃなかったんだな! つまり……俺の知ってる地球は、科学だけが発展した世界って事か?」
ファンタジーゲーム・ファンタジーライトノベルを余す事なく読み漁ったおかげで、簡単にこの世界を理解し飲み込む事が出来た。
どんな分岐を辿った世界にも広がるというのは、空想上では知っていたが、まさか現実に存在するとまでは思っていなかった。
「僕らがさっきいた場所は、多元次元の原初と呼ばれてる『プリミティブ・アース』とも言われてるんだよ、ちなみに僕達一家はここから来たんだ」
来栖財閥は人知れず魔法・科学技術を使い、世界でも有名な大手企業に成り上がる事に成功した。
「つまり異世界人のお前は、俺にファンタジーゲームなんて辞めろと言いつつ、自分が現実世界でファンタジー世界にいたのか?」
「当たり前の様に異世界人って言われると否定できないね。黙ってた事は悪いと思ってるよ。これは誰にも知られてはいけない事なんだ」
「逆にこんな事話して、誰が信じるか教えて欲しいね。俺と同じファンタジーファンに話した所で痛い奴扱いされてるのは目に見えてる」
街中を歩いてる人達はスマートフォンを触ってるのを見て、渚もポケットから出すと、電波が魔法陣模様に切り替わってるのが分かった。
ちなみにネットも使えるし、母親に電話をしてみた所通じてしまいワンコールで消した。
街中を走る青色の車は全て無人車となっているが、ハンドルだけが動いていた。
「一応全てのアースに繋がる用になっている魔法版のWi-Fiともなっているんだ。アレはタクシーより高めだけど、魔法と科学を応用した無人タクシーだね」
「アレはなんだ?」
公園の子供達がスマートフォンで遊んでいるが、違うのが直ぐに分かった。
男の子が利き腕に装着したガントレットにハメてる、タブレットを取り外して画面に触れると、ホログラムで作られた赤色の魔法陣が出現して、小さな火が噴き出す。
女の子も同じくタブレットを取り外して画面に触れると、ホログラム上の水色の魔法陣が出現して、小さな水を噴射して鎮火させる。
「魔法陣プログラムがタブレットに組み込まれていて、使用者の属性に対応する魔法陣をタップして魔力を流すと発動する仕組みになっているんだ。もちろん、コレは子供達の補助の一環だから強い魔法は打てないけどね」
「じゃあ龍司。お前も魔法が使えるのか?」
「そりゃ僕も、この世界の住人だから使えるよ」
龍司は右手を上にすると、掌には赤色の魔法陣が形成されると中には、幾何学的模様の他に電子回路基板の配線が合体した模様が浮かび上がり赤色に染まる。
「熱っつ! コレが魔法陣?」
渚は手で触れてみると、熱を帯びていて火花を散らしていて数秒と経たずに魔法陣を消した。
ファンタジー洋画やゲームでも見た事がない魔法陣に、楽しさを覚えた彼にはこの熱ささえ気にする程の事ではなかった。
「僕は炎属性だから、熱いのは当たり前だよ。これから合格した魔術学園に向かう所だよ」
「ファンタジーのライトノベルみたいに、貴族の御曹司・御令嬢がいたりするのか? 読む分には楽しいかも知れないけど、お前もこれからそれを体験するって面倒くさそうだよな」
「様々な多元次元の世界からも貴族が来るから、誰が誰だか分からないけど、とりあえず有名な人は、あの人だ」
魔術学園の中に車が入ると、噴水を中心として回る形で車道が造られていた。
「めっちゃかわいい、何者だよ?」
前の車から二人と同年齢の美人な女性が降りると、玄関の中に入って行く彼女を、龍司は指差す。
渚はあまりの美人さに思わず、口を塞いでしまった。
「彼女の多元次元では、かぐや姫は実在していたんだ。あの人はその子孫で現在は王女様。セレナ・カグヤ。彼女の家系がかぐや姫の元となったんだ」
「情報が多すぎる! 俺達の民話や伝承も別世界では実在していたって事なんだな、サンタクロースも?」
「別世界に存在する」
龍司の高級車が玄関前に到着すると停車して、運転手がわざわざドアを開いてくれて二人は降りた。
渚は女性の運転手にお礼をしたら、専用駐車場で待機するよう龍司が言う。
「そもそもだけど、何で俺をここに連れて来た? 俺は通えないし、それより、楽しいアトラクションがある場所なは行かないか?」
「ファンタジーの事になると察しが良いのに、それ以外は本当に察しが悪いな渚は、僕のコネでお願い出来るかどうか頼むんだよ。一応お父さんの多額の寄付も入ってるし、後は僕の貯金から出せば何とかなるさ」
「貯金て……マジで良いの!? 何で俺の為に?」
幼馴染で友達という以外に、何かをしたわけでもない渚はここまでしてくれる理由が気になったのは当然の事だった。
「汚い言い方になるけど、僕の家族はお金がある。そして友達と一緒に通えるなら、そうしたいだろ」
「本当にストレートに言いやがったけどこの際、魔法が使えるなら何でも良い! マジで最高の友達だ。愛してるぜ」
もちろん、友達以上恋愛未満の意味。
仲良くしてただけの幼馴染であり友達が、自身の為に手を尽くそうとしてる事に感謝して、思わずハグをしてしまった。
「友達としての意味でならね、そして抱きつくな離れてくれ。僕だって彼女が欲しいんだ」
龍司は大袈裟だと失笑しながら渚を離した。
ストンと物が地面に落ちる音が聞こえてしまい、振り返ると先程の月の王女様が硬直させて二人を眺めていた。
「あ、あああ、貴方達は愛し合っ……」
カバンを落としていた、セレナ・カグヤと呼ばれる女性は鼻血を垂らし、指で二人を交互に動かしていた。
色白の肌・金髪のポニーテール・金色の瞳に上睫毛・老若男女問わず好かれる美しい顔立ち・豊満で弾力なJカップ・スレンダー美ボディな体型。
洋と和のバランスが取れた服にヘソだしスタイル・ミニスカートを履いている。
彼女の先祖はかぐや姫であり、現代になるまで様々な血が混ざり日本でもイギリスでもない。
魔法により新たな大陸を形成し魔法国家を築き上げ、次期女王として強い魔法、多量の魔力を保有している。
彼女の一つの趣味としてBLモノが好きで、二人のハグしてる姿に興奮してしまい、鼻血が噴き出してしまった。
「「てないです!!」」
「えぇ、そうよね。誰にも知られたくないモノね。うふふ……!」
満面の笑みを浮かべて、質問をする前に遮って二人が即答しても、セレナは何度も鼻を拭いても、その度に鼻血を垂らしても気にせず、ニヤニヤとしていた。
「違う……じゃなくて違いますセレナ王女様。これは完全な誤解です。ただの友達なんですよ」
「わかってるわよ。ただの友達なのよね? 貴方達の関係は誰にも話さないわよ」
渚は誤解を解こうと必死に説得するが、返って逆効果となり、まるで隠語か何かと思われ、ウィンクされて言わなくても分かってると勘違いされてしまい、その場を離れた。
「完全に勘違いされたな、僕達は学園長に会いに行くかな」
二人は学園長の元へ向かった。
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