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女は落胆をあらわに、目の前に立った男に頭を下げた。
「すみません、人違いでした」
登場するなりがっかりされた男が、当惑顔で頭をかく。すると、その腰で揺れる小さな銀色に、女の目が見開かれた。
「その、方位磁石は……」
鎖で腰のベルトにさげた円盤を、男が大きな手のひらに乗せる。
「ああ、これは……この間までパーティーを組んでた子の形見なんだ」
形見。その言葉が、みるみる女の顔色を奪った。
「もしかして……私と同じくらいの歳の、青い目の女の子ですか?」
「そうだ。19歳だと言ってたかな、茶色い巻毛の、元気な子だった」
「あぁ、エイプリル……」
自らの心臓を掴むように、女が胸の前で両手を握りしめる。目の前で震える細い肩にそっと手を置き、男は気の毒そうに眉根を寄せた。
「思い出したよ。あんた、エイプリルの友達の、確か名前は……」
「ジューンです。エイプリルとは、隣村の施設で一緒に育ちました」
「同じ白魔道士、だよな?」
「はい。だから、別々に旅をしていたんです」
冒険者は大抵、5、6人でパーティーを編成する。戦士と違い、回復や戦闘補助が専門の白魔道士が二人、同じパーティーに入ることはまずない。
「エイプリルとは、毎年4月6日に、この町で会う約束をしていて。こんな世の中だし、いつかどちらかが来られなくなるってことは、覚悟していましたけど……」
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