SF的妄想

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SF的妄想

 引っ越して半年近くなるが、未だに箒に長さ30センチほどの髪の毛が引っかかる。掃除をするたびに違う場所から出てくる。これは何か、あるいはいかなる現象か、というのが本稿の主題である。  前提として、私は一人暮らしの男性であり、この部屋に女性を招いたことはなく、私の残り少ない頭髪は引っ越し以前から2センチ未満の短髪である、ということをご承知おきいただきたい。  ではなぜ、女性のものと思しき毛髪がいつまでも発見され続けるのか。  考えられる可能性は以下に大別される。 1. この毛髪は私のものではない。 2. この毛髪は私のものである。 3.実はこれは毛髪ではない。 4.毛髪に見える何かは存在しない。  1はさらにいくつかの仮説につながる。  1.1 実は私の認識に反し、私は一人暮らしではない。   この場合、私に認識されずにこの部屋に居住し、常に私の視界の外で生活   している女性の存在が想定できる。   別な可能性として、私は昨年離別したガールフレンドとこの部屋で同居中であり、その事実を私の無意識が認識・記憶することを拒んでいるということも考えられる。  1.2 この部屋には私しかいないが、何らかの作用によって髪の毛だけが私の部屋に出現している。   私の頭に最初に浮かんだのはこの仮説であった。別な世界線のこの部屋、Rアパート403号室には私ではなく女性が住んでおり、なんらかの未知の作用(おそらく量子的なもの)により、毛髪だけがこちらの世界線に転移してきている、とする考えである。  ただ、並行世界・多元宇宙説そのものは現在の科学的知見と矛盾しないもののようであるが、毛髪のような巨大で複雑(量子レベルで言えば)なものが、どのように世界線の壁を越えて転移してくるのか、私は説明できる理論を知らない。  あるいは、より科学の進んだ並行世界で、この部屋を舞台になんらかの実験が行われているのかもしれない。      
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