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* * * *
成田は目を開けると、そこは冷たくもない、寒くもない明るい場所だった。しかも立っている。今までのことが全て夢だったかのような想いすら感じる。
目の前には女性が驚いたような顔でこちらを見ていた。
「もしかして……成田綾音さんですか?」
『そうですけど……』
「うわっ、また幽霊出現?」
『幽霊……じゃあ私はもう……』
「いえ、まだ死んでいません。ちゃんと魂は体に繋がっています」
『やっぱりあれは現実か……きっともう時間の問題ですね……体を動かすことが出来なくなっていたから……』
肩を落とした成田に、近間は声をかける。
「あの、お聞きしたいのですが、高校の時のクラスメイトに早川耕史という方はいませんでしたか?」
『はい、いました。同じ委員だったのでよく覚えています』
「彼が今あなたと松岡さんの捜索に当たっています。『あの時みたいに俺を呼べ』、彼からの伝言です。あなたはまだ生きている。まだ生きているんです! 諦めずに早川さんのことを呼んでください!」
近間が言い終えたのとほぼ同じタイミングで、成田の姿は消えていった。
* * * *
誰かの声がする……あぁ、きっと助けが来たんだ……。さっきの女性が言ってたじゃない……。早川くんが探してるって……。そうか、彼は警察官になったんだ……あの頃から正義感が強かったし、頼りになる存在だった。警察官になったと聞けば、ただ納得してしまう。
私は自分がどこにいるのかわからない。すぐに見つけてもらえるような場所なのかしら……。
でも声が少しずつ近付いているのがわかる。きっと早川くんなら見つけてくれる。諦めちゃダメだ。
動けば背中に激痛が走る。声を出すには精神的な我慢が必要になりそうだった。
成田は深呼吸を繰り返してから覚悟を決めると、これ以上ないくらいの声を張り上げた。
「早川くーん! うっ、あーっ……!」
痛さのあまり、呻き声が漏れる。しかしそれと共に、人々の足音が徐々に大きくなっていく。
何かを動かしたような大きな音がしたかと思うと、急に目の前が眩しくなった。
「見つけたぞ! 成田! 松岡さん!」
首元に誰かの温かい指が触れる。
「二人ともまだ生きてる! 担架を早く!」
あぁ、良かった……あの子も生きていたんだ……。ホッとした瞬間、成田は意識を失った。
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