ふつうの裏側

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「分かってるって。でもうちは子供もいないんだしさ。二人で稼げばまた貯まるって」  日菜子は息をのんだ。日菜子自身はずっと子供が欲しいと思ってきたのだ。それを、もうちょっと落ち着いてから、もうちょっと給料が上がってからと何かと理由をつけて先延ばしにしてきたのは隆ではないか。それを、まるで二人の合意の上であるように言わないで欲しい。ずっと心の中でわだかまってきたものが、溢れ出すのを感じた。 「もういや。別れる」  気が付けば、そう口にしていた。 「もう、こんな意味の分からないお金の使い方する人とやっていけない」  その途端、隆の顔色が一変した。 「どういうことだよ」  唸るように言う。 「謝ってんじゃん。いつまでもぐちぐちうるさいよ。又貯めればいいだろ」 「そういう問題じゃない。もう別れたい」 「はあ?何を理由に?俺、浮気もしてなきゃDVもしてないよ。ただ、ちょっと出費が嵩んだだけだろ?それを理由に別れられると思ってんの?」  日菜子は再度息をのむ。離婚に関する法律の理不尽さについては友人や知り合いから聞いて知っていた。明らかな理由もないのに別れたいと言っても、おそらく難しいだろう。  顔色を無くす日菜子を勝ち誇ったように見て隆が言った。 「それともなに、そっちが実は浮気してんじゃないの?なら、そっちが一方的に悪いよな。慰謝料払えよ。今まで貯めた金全部。そうしたら離婚してやるよ」  心の中で、何かが崩れる音がした。
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