ふつうの裏側

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🏠  会社の自分の席に着くと、自然と大きなため息が出た。あれ以来、隆とは2週間以上冷戦状態だ。  我ながら顔色も悪く、傍から見たら何か悩んでいるのが一目瞭然だろう。案の定、丁度通りかかった岸田が振り返る。 「日菜子さん、どうかしたの?」  人のよさそうな丸い目が、笑うと三日月のように細くなる。よれよれのスーツを着てお世辞にもパリッとしているとは言えない。若いのに競馬とパチンコが趣味なのは褒められたものではないが、人懐こいその性格のせいか、社内ではみんなに可愛がられている。偶然にも隆とは同じ高校の出身で面識もあり、だからか、いつも気やすく「隆先輩元気ですか?」と声をかけてくれる。日菜子もまた、愚痴とも惚気ともつかない内容を何回か岸田に話したことがあった。 「ううん、ごめんなさい、仕事とは関係ないことなので」  そう言い淀む日菜子を、岸田はじっと見つめた。少しためらった後、思い切ったように言う。 「そしたら、今日俺外交ないんで、昼飯食いません?この前うまそうな定食屋見つけたんだけど、ちょっと洒落てて男一人だと入りづらいんですよ」  少し気まずそうに早口で言い募った岸田を、日菜子はそっと見上げた。少し考えて、そうね、と答える。 「ちょっと疲れてて最近お弁当作ってきてなかったの。だから丁度外で食べようと思ってたんだ。すごい偶然!」  嬉しそうに微笑んで見せた。
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