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「…足りない」
人々がATMの前に並ぶ給料日。今日もその都市銀行のATMの前には長蛇の列が出来ていた。みんな、お給料日には美味しいものを食べたりするんだろうか、中村日菜子がそんな呑気なことを考えながら、記帳のためにATMに通帳を挿入した時だった。日菜子の口から「え?」と声が漏れた。先月確認した時には300万円程は残額があった筈の口座の残高が、250万円を切っていた。
日菜子はATMの前で大きく息を吸った。後ろには既に操作待ちの列が出来ている。早く順番を譲らないと、と焦る頭で必死に思い当たる節を探る。この一ヶ月、特段大きな買い物はしていない。まさか、不正利用?でも、カードも通帳も、普段はクローゼットの奥深くにしまってあって、毎月の記帳の際にしか持ち出さない。そもそも、この口座はあくまでも貯蓄用につくってあるもので、基本的には切り崩さずに貯めていくだけのもののはずなのだ。残高が増えることはあっても、減ることはあり得ない。
震える手を押さえながら、通帳をチェックする。先週、55万円が引き出されている。
やられた、と思った。クローゼットの奥にしまってある通帳をこっそり持ち出して預金を引き出せる人間は、日菜子以外に一人しかいない。
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