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日菜子が中村隆と出会って結婚したのは、今からおよそ10年ほど前の話だ。友人の紹介で出会った隆は、ぼさっとした髪型に人懐こそうな笑みを浮かべたごくごく普通の青年だった。
普通である、ということは大事だと日菜子は常々思っていた。日菜子自身、学生時代は平均的な成績の、平均的な学生で、目立つこともなくそれでもそれなりに幸せにやってきた。学年の中で特に目立つ子達がグループを作り、自分たちの地位を守るために必死に虚勢を張り、誰と誰が付き合ったとか振られたとか大騒ぎしているのを見ながら、穏やかな自分の日常にしみじみと感謝しながらやってきた。だから、そんな自分がごく普通の青年である隆と出会って結婚するというのは、穏やかな日常の延長として実に恵まれたことなのだと、日菜子は考えていた。
唯一誤算だったのは、世の中に「普通」なんてものはないということを、まだその頃の日菜子は知らなかったということだ。そう、世の中の「普通」に騙されてはいけない。
「普通」には常に、裏がある。
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