ふつうの裏側

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🏠  最初に違和感を感じたのは、結婚に向けて式場を探し始めた頃だ。その時も、日菜子と隆はリビングのテーブルで向かい合って座っていた。辺りに重苦しい沈黙が立ち込めていた。手で掬って触れられるほどの、どす黒い沈黙だ。 「お義母さんから、お祝い金として50万円を振り込んだって連絡があったの。でも、記帳してみたらそのうちの20万円がもう引き出されてる。これって、あなただよね?」  隆は気まずそうな顔で黙っている。結婚に先駆けて二人で生活を始めた1LDKのマンションの、こじんまりとしたリビングでの話だ。 「20万円も、何に使ったの?というか、なんで使う前に相談してくれなかったの?」  出来るだけ穏やかに問いかけた。隆が浪費家なのは分かっていた。給料が入れば気が大きくなって会社の後輩に奢ってしまう。付き合いと言っては友達と一緒に競馬に行く。それでも、金額はそんなに大きくなかったし、怪しげな消費者金融に足を運ぶようなことはなかった。少ない給料の中から、日菜子の好きなお菓子や花などを買ってきてくれることもあった。当時の日菜子はまだ、隆に嫌われたくなかったし、結婚したら、金遣いの荒さも少しはましになるのでは、という期待もあった。だから、出来るだけ穏便に済ませたかった。
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