マーガレット

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 ──そのあと、みんなでおにぎりを食べて……珍しく杏璃の食が進まず、二つ持ってきたおにぎりの一つをあかりにあげていた。杏璃は友哉には聞かずにあかりに差し出して……。あかりも友哉を気にせず、当たり前みたいに杏璃の手からおにぎりを食べた。  頭の中の過去の映像に、みぞおちがずんと重くなった気がして、友哉はそこに手を当てた。視線が自然に杏璃の薄い背中に向かう。    ──それから、食事が終わるといつもは滅多にベンチから立たないあかりがのっそりと動き、水際とは反対の、草が生い茂った周辺へと歩き出した。杏璃と友哉は不思議に思いながらも、あかりの興味を引くものでもあったのだろうと声をかけはせず、互いに自分のしたいことを再開した。  友哉はカスミサンショウウオを見つける為に、杏璃は次はミズオオバコでも研究しようかと、なんとなく二人並んで水際にしゃがんで水面を見る。  友哉が水面の紋様に目を動かすと、杏璃の横顔が視界に入った。その頃からずっとボブスタイルの杏璃の髪は、うつむくと杏璃の頬を隠してしまう。どうしてだかその時、ひどく杏璃の顔を見たい衝動に駆られて、髪に触れようと手を伸ばしかけた。 「杏璃」  友哉自身が発したのかと思うくらいのタイミング。さっきまで向こうにいたあかりが杏璃の名を呼び、もう杏璃の後ろにしゃがんでいた。 「これ」  あかりが持っていたのは、花心が黄色でたくさんの白い花弁がついている一本の花だった。 「え? マーガレット? なわけないよね。菊の仲間かな? マーガレットは野生じゃないし、夏は咲かないんだもの。でもそっくり。もしかして新種のマーガレットだったりして! あかり、あっちにあったの? 凄いね、良く見つけたね。私、マーガレットが大好きなの! ありがとう!」  杏璃は興奮気味に早口になって、頬を赤らめて喜んだ。  あかりはそれを見てふんわりと笑うと、手を伸ばして杏璃の片側の髪を耳にかけてやり、花を挿した。 「服とおんなじ色。杏璃、かわいい」  途端に、杏璃の顔が一層真っ赤に染まった。同時に友哉の腹の底が強烈に熱くなって、真っ赤に燃え始めた気がした。 「──全然かわいくない! 気持ちわりぃ!」  そんなこと、欠片も思っていないのに、友哉の口から刺々しい音を含んだ言葉が飛び出して、気づくと杏璃の肩を押していた。
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