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愛してる
一度返済したことで、俺に対する信頼は上がったはずだ。その証拠に、ランチの間もミハルのおしゃべりが止まらなかった。それに合わせて、俺もつられて喋った。久しぶりに笑った気もする。
「じゃあ、また…」
「うん、またLINEするね。今日はありがとう。スマホも止められずに済むから、ミハルとのつながりは切れない、安心したよ」
「うん、私も。また会ってね」
ご機嫌な様子で帰って行った。
___この様子なら、またしばらくしたらお金を引き出せるかもしれないな
◇◇◇
「今日はどこへ行ってたの?」
「えっ?」
その夜のこと。いきなりの香澄からの問いかけに、驚いてしまった。
___まさか、またミハルといたことがバレた?
「会長が、連絡がつかないと言ってたから」
ミハルと会う前に着信があったことを思い出した。
「ちょっとね、入院した友達に会いに行ってた。隣街まで」
___しまった!余計なことを言ってしまった
どこに行ったかなんて聞かれてもいないのに、こちらから言ってしまった。
訝しげな顔で俺を見る香澄。不安とか怒りとかそんな表情ではない、呆れているのか?読み取ることはできない。
「そう。あとで連絡しておいて、会長に。なんだか気にしてたようだから」
「あ、うん、わかった」
また、ミハルとのことを問い詰められるのだろうか。会長の顔を思い浮かべたら息苦しさをおぼえた。
「もしもし、俺です」
『翔馬か。明後日から3日ほど、ある女性をエスコートして東京まで行ってくれ。最上級のもてなしをよろしく頼む。留守にすることは香澄には話してある』
「…はい」
『今日はどこへ行っていた?まさかとは思うが…』
「友人の見舞いに」
『そうか。その友人は女でないと思っていいんだな』
___やはり牽制してくるか
「当然です。では失礼します」
見えないロープでぐるぐる巻きにされているようだ。俺の意思や感情は、会長にも妻である香澄にもなんの関心もないようだ。そもそも感情なんて持つ必要のない結婚だったんだ。
___“愛してる”と言われたい
ミハルの声が聞きたくなった。そう思う自分を、悪くないと思い始めた。
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