香澄の元夫

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香澄の元夫

最初から、子どもも一緒に会った。これはどうしても俺と結婚させたいという会長の意志のあらわれだ。 「はじめまして、門倉(かどくら)香澄(かすみ)です。この子は(あおい)6才です」 「(あおい)です」 「大瀧(おおたき)翔馬(しょうま)です」 ___なんだ、いい女じゃないか! それが第一印象だった。息子だという葵も、母親に似て可愛らしい。よく性格の不一致で離婚するやつがいるが、最初から世間体のための結婚だとお互いが認めていれば、これは案外うまくいくんじゃないか? 「あれ?門倉(かどくら)って、もしかして?」 「お聞きになってませんか?門倉(かどくら)栄一(えいいち)は父です」 「…そうでしたか」 門倉ホールディングスの会長、俺にこの女と結婚するように言ったのは、この女の父親だったのか。 驚いたのもあったがそれよりも、打算が勝った。義理とはいえ、門倉の息子になれるのだからこれ以上美味しい話はない。 そこからは、トントン拍子に話が進んだ。香澄にとっては二度目の結婚ということもあり、大袈裟な式は挙げず会社関係で必要な人間だけを呼んでの食事会をしたくらいだ。 「翔馬さん、こちらへ。紹介しておきたい人がいるの」 香澄に連れて行かれたのは、ある夫婦のところだった。それが香澄の元夫とその奥さん…つまりは香澄から夫を略奪した女だったとはその後で知った。 ___見た目、俺の圧勝だな 門倉ホールディングスの中では仕事ができる男らしく、そこそこの要職についていた。会長には息子もいて社長は息子(香澄の兄)が就いているので、その補佐らしい。 会長の娘と離婚したことで会社を追い出されるのが普通なのだろうが、そういうことはせず、あくまで優秀な人材として会社に残すというやり方は、あの会長ならではだ。 だが、それでは香澄の気が済まない。そこで元夫よりは確実にいい男と結婚させることで、香澄のプライドを守りたかったらしい。 見た目はもちろんのこと、規模は小さくても会社の“社長”という肩書きの俺に白羽の矢が立ったわけだ。
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