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「そうだ、これ!」
思い出したように、財布から封筒を取り出してミハルの前に出す。
「これ、何?」
「これまで借りてたお金の、ほんの一部だけど。これだけ用意できたから返しておこうと思って」
「え?どういうこと?」
「ミハル、不安でしょ?俺がちゃんと金を返さないんじゃないかって。だから、ちょっとでも返せる時に返しておこうと思ってね」
こんなこともあるかと、用意しておいたお金の4万円が入れてある。あくまでもこれまでの返済であると強調しておく。万が一詐欺罪で訴えられたりしても、言い訳できるように。
「返してくれるの?これ」
「少なくてごめん、残りも必ず返すから」
ミハルの顔が明るくなった。お金を返してもらえると安心したのだろう。返さないつもりはない、いつかきっと返す。だけどそれがいつになるか自分でもわからない。だから念のために一部を返済しておく。
「ランチ、行こうか?」
「じゃあ、焼肉が食べたいな」
「わかった。翔馬はこの辺り詳しいでしょ?案内してくれる?」
「いいよ、知ってる店がある」
「ご馳走するね」
「ありがとう、ミハル。最近いいもの食べてないからうれしいよ」
そしてまた抱きしめる。真っ直ぐに俺を見るミハルをもう一度、抱きたくなった。俺という存在を真正面から信じてくれる唯一の女。
「愛してるよ、ミハル。ねぇ、もう一回、ダメ?」
このまま俺のものになればいいのにと叶うはずもない願いを抱き、叶わない現実に苛立つ。そんな感情を読まれないように、荒々しく突き進む。
「あ、そんな…ダメ…」
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