『花開く』

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『花開く』

朝になった。 脱ぎ散らかした服は、俺のものばかりだった。 部屋を見渡すが、人の気配はない。いつのまにか女社長は帰ったらしい。目覚めはあまりよくない。酒はほとんど飲んでいなかったから、この怠さは昨夜の交わりのせいか。 「ただいま…」 帰っても既に誰もいない家には、温かみのようなものもない。 “世間体のためだけの結婚”、わかってはいたがここまで砂を噛むような生活になるなんてな。今になって自嘲してしまう。 ___やっぱり結婚なんてするんじゃなかった 最初からずっと1人なら、こんなに虚しい感情もなかっただろう。 コーヒーを淹れ、スマホを開く。あてもなくネットサーフィンをした後、“退屈”をキーワードに検索してみた。 『花開く』? 女向けの出会い系サイトか?時間潰しに登録してみた。 悩み事相談とか? スクロールして書き込まれたコメントを読んでいく。 《誰か私の話を聞いてください》 《楽しいことないかなぁ?》 《失恋しちゃった…》 女性専用というわけじゃないようだし出会い系でもないようだ。一見すると話し相手を欲しがる女のコメントばかりが目立った。個人情報は掲載禁止、誹謗中傷も禁止、違反したら強制退会。 《さびしいなぁ…》 《生きてる意味がわかりません》 《仕事したくないよぉ》 どんな素性の人間か、もしかしたら性別も嘘かもしれない、年齢もわからない。 ___ということは、何を書いても自由ってことか 誹謗中傷と個人情報以外なら、思ってることを書いてもいいということだ。ここならば、味気ない毎日を吐き出せそうな気がする。 アイコンはお気に入りの香水瓶の写真にした。性別は男、仕事は会社員が妥当なところか。 自己紹介は…。 〈あなたのお話、いつでも聞きますよ。お気軽にコメントください〉 最初は別に何がしたかったわけでもなかった。なのに、このサイトでのやり取りで面白いことを見つけた。
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