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結婚
やっぱり結婚なんかするんじゃなかったと、今でも思う。
◇◇◇
「翔馬、お前にピッタリの女がいるんだが、結婚を前提に付き合ってみないか?」
仕事でお世話になっている、とある会社の会長からの電話で言われた。この人からの話は無碍にはできないけれど。
「いや、会長、俺は結婚とか向いてないですよ」
「だろうな。お前は家庭を守るような男じゃない。だがな、“家庭がある男”というのは独身男よりずっと、社会的に信用が上がるぞ、それは間違いない」
それはそうかもしれない。だけど、もしもその女がとんでもない女だったとしたら、取り返しがつかなくなる気がする。会長が紹介するということは、会長と何かしらのつながりがあるということだ。付き合ってしまったら相手から断られない限り、結婚することになるのだろう。
「俺は、誰かの人生に責任を持つような生き方はできないと思います」
「責任なんか持たなくていい。相手もお前に扶養されようなんて思ってもいないからな」
「じゃあ、どうして結婚を?」
「世間体だな。結婚してなくても生活に困るような家柄でもないから、あくせくしなくても大丈夫だ。そういう意味では、お前と考えが似ているだろう?」
「…しかし」
「次の投資の話もあるからな」
「……」
金の話を出されると、断れない。
___でもまぁ、生活の責任がないのなら、別にかまわないか
「わかりました、とりあえず会うだけ会ってみます。でも先方から断られたらすみません」
「あっはっは!それなら大丈夫だ。先方はお前の顔を知っている。好みだそうだ。あ、そうそう、子どもなら作る必要はない。先方はバツイチ子持ち、それも男の子だからな」
本当に、世間体のためだけの結婚のようだ。そんな女が存在するとは思わなかった。
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