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先ほど、「プラネット」と会話した内容を思い出す。
「……タレント、か。ないな」
『才能』、『才能がある人』という意味を持つタレント。純には父親のように優れたセンスはなく、愛される才能はない。母親のような演技力や魅力もない。だからこそ、今は勉強が必要だ。
少なくとも知識と学歴があれば、人生が苦しくなることはない。
純は気合を入れるよう息をつき、再び教科書とノートに向き合う。
「勝手なことはおやめください!」
部屋の外から聞こえてきた女性の声。純は動きを止め、そのまま聞き耳を立てる。
「この件は社長に任せられているはずです。手を出されたらこちらの立場が……」
「あのさあ、きみ、僕のことなんだと思ってるの?」
ゆったりと、小ばかにする、低い声。聞き覚えのある声だった。この声は。
「会長! ですがこの件に関しましては……」
「僕は彼に会うことも許されないわけ? 彼に目を付けたのも僕。社長に彼を勧めたのも僕なのに?」
声は、足音とともに、純がいる会議室にどんどん近づいてくる。純は物音を立てず、息をひそめていた。
「それは、そう、ですが……」
「彼が、社長の提案にのらないかもしれないじゃん。そのときは僕が彼をもらっても、いいんでしょ?」
会話の内容からすると、会長は誰かをスカウトするためにここまで来ているようだ。
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