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「大体、あの子の価値を社長はちゃんとわかってるのかな? どんなに才能を持ってる子でも、環境によっては腐らせるだけだよ?」
「そうおっしゃっても、この件は決定事項です。社長やスタッフが総力を挙げてデビューに関わるわけですから……」
「仕事を社長に譲った僕には、なんの権限もない、と?」
「……いえ、そういうことではなく」
世間的にも顔が知られている会長は、才能のあるタレント以外には手厳しいことで有名だ。社員に対しては、タレントを際立たせるために動かす駒としか思っていない。
純は、よく覚えている。以前、会長にあいさつした際、言葉を失うほどの圧と隠そうともしない自信が、経営者としての手腕を物語っていたことを。
「ですがこの件に関しましては」
それまで続いていた足音が、ため息と同時に止まる。ドアのすぐ近くだ。
二人の声が、はっきりと聞こえてきた。
「わかった。声はかけないでおくよ」
「え……?」
安心した息をつく女性に反し、純は嫌な予感がしていた。
会長のことだ。ここで簡単に引き下がるはずがない。
「ただし、条件がある」
重々しい圧のある声だ。
「社長のスカウト、に加えて、会長のスカウトでデビューってことも付け加えること」
会長はよっぽど、その相手に期待しているようだ。どうしても自分がかかわっている存在なのだと、誇示したがっている。
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