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そもそも、会長直々のスカウトという事例が珍しい。レッスン生やインディーズからデビューする者が多い中、会長からのスカウトはそれだけで箔がつく。
これまでスカウトされた人物は、いずれもスターと呼ばれるような存在になっていた。
「しつこいくらいに強調してね。それが彼を守ることにもつながる。グループとして売り出すならなおさらね」
「それは、私だけではなんとも」
「そう。じゃあいいよ。……でもね。僕なら、彼らがデビューしたところで、それを取り消すこともできるんだよ?」
女性の、生唾を飲み込む音が、純の耳にしっかりと届いていた。
「わかる? 僕が無理やり、彼を辞めさせることだってできるんだ。……それくらい僕は本気だよ」
社長の言葉にウソはない。だからこそ強引で、タチが悪い。
「……承知しました。社長に申し伝えておきます」
「わかればいいんだよ、わかれば」
足音が再び聞こえはじめ、だんだん遠ざかっていく。
「まあ、社長のことだから、これくらいの条件は飲むと思うけどね。結果残したい状況で、不安要素は取り除いておきたいだろうし」
会長の話し声も遠くなり、人の気配はもう感じない。ようやく、純は疲れ切った息をつく。
事務所に渦巻く黒い感情の出どころは、なにもタレントに限った話ではない。
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