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タレントという商品をいかに売り出すか。社員、役職の思惑もただよっている。タレントが売れれば売れるほど、かかわった社員の評価も上がるからだ。
才能ある人材を奪い合うのも当然のことだった。
自分には無理な世界だとひと事のように考えつつ、勉強中のノートに視線を落とす。
「……ほんと、すごい世界だな。俺には、絶対に無理だ」
勉強を再開しようと、ノートにペンを付けるが、そこから文字が書き込まれることはない。
純の中で、嫌な予感が消えなかった。これは杞憂で、考えすぎている可能性もある。しかし、先に手が動いていた。
ペンをペンケースにしまいこみ、広げていた参考書やノートを閉じていく。本能が、ここから一刻も早く離れるべきだと告げていた。
「どこにいこう。パパには、あとで連絡するとして……」
デスクに広げていたものを、通学カバンに押し込んでいく。
純の耳は、固く高い足音を拾いはじめた。よりいっそう焦燥感をつのらせながら、カバンのファスナーを閉めて立ち上がる。
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