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「そうそう。昔で言うヤンキーだったから、学校にも行かずにギターばっかりだったのよ」
「そのようですね」
話を合わせながら、席を立つタイミングをうかがう。
「……社長は、お忙しいんじゃないですか? 事務所の経営を引き継いだって聞きましたけど」
「ええ、そうよ。想像以上に忙しいわ」
昨年まで事務所を統括していたのは、事務所の創業者である会長だ。今年度から体制が変わり、妻である社長が仕事を引き継いでいる。
会長が敏腕で成功者だっただけに、業界全体で社長の手腕が問われている状況だ。
「わざわざここまでいらっしゃらなくても、あとで父と一緒にご挨拶にうかがいましたのに」
「そうね。でもあなたにどうしても会いたくて、私のほうから来ちゃった」
純は社長の一挙手一投足を注意深く見つめていた。なんとかして隙を見つけなければ、ここから逃げ出せない。
「……そんなに見られると緊張しちゃうわ。穴が開くどころか、見られたくないとこまで見られてるような気がするんだもの」
「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
社長は穏やかな笑みと雰囲気を一切崩さない。しかしその視線から、社長も純を探っていることに気づいた。
「実はね、今年、新しいアイドルグループをデビューさせるつもりなの」
「それはまた……。社長として代替わりしたばかりなのに、早いですね」
今年デビューということは、社長が全権を握る前から準備を進めていたことになる。
綿密に計画を立て、今後の方針も具体的に考えていることだろう。この一発目がうまくいくかどうかで、今後の権威や評価が大きく変わっていく。
「あなたも、会長と同じようなことを言うのね」
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