断りたいスカウト

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 ほほ笑む純だったが、返事をしなかった。 「私主導で話を進めてたのに、会長がいきなり、デビューにストップをかけたのよ。早計だって。売れないってわかっててデビューさせるほうが酷だとか言ってたわ。私の汚点にしかならないって」  会長の言い分も一理ある。売り出すにもコストがかかり、売れさせて元を取れなければ意味がない。  これは社長が全権を握ってから一発目の仕事。 『売れない可能性』のほうが大きいのであれば、デビューさせるべきではない。 「でも、私は私自身が目を付けた子たちで結果を出したいのよ。……そうつっぱねたら、会長がデビューさせる条件を出してきたの」 「条件?」 「そう。グループが売れると同時に私の地位を固めるためには、それしかないって」  純は返事ができず、視線を下げた。心臓が、激しく脈を打っている。テーブルの下に隠している手は、指先が震えていた。動揺を社長に気づかれないよう必死だ。  純が今わかっているのは、社長がこのあと続けて出す言葉に、決してうなずいてはならないということだ。この場をどう切り抜けようか、必死に考える。  その姿を、社長がほほ笑みながら見すえていた。 「もう、わかってるんでしょ? 私があなたに、何をしに来たのか」  社長と目を合わせた純は、間抜けなふりをしてほほ笑んだ。 「さあ……昔から察しが悪いもので」 「そう、そのとおり。あなたをスカウトしに来たの。アイドルグループの、八人目として」  純の笑みが引きつる。対して社長の笑みは、余裕たっぷりだ。
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