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「どうせこっちがウソをついて引き寄せようとしても、賢いあなたはうまくかわして逃げるでしょ? だから直接、はっきり言ったほうがいいと思って」
決して広くはない会議室に、社長と二人きり。逃げ場はない。
純が絶対に聞きたくない言葉を、社長はこれ見よがしに放った。
「あなたに、アイドルになってもらうわ」
純の血の気が、引いていく。
「一緒に活動しながら、能力を使ってグループを成功に導いてほしいの。ご両親に、しているみたいに」
返事を聞く気もなく、社長は上を見ながら続ける。
「目標は、そうね。年末の歌番組には当たり前のように呼ばれて、グループの冠番組を全局で担当できるような……そんな国民的アイドルグループよ。少なくとも、あなたのお父さんと同じくらい、有名になってもらいたいわ」
純は社長から目をそらし、両手を振った。
「そんなの、無理です……」
アイドルグループに力を使うのはともかく、アイドルというさまざまな感情を向けられる仕事をこなせるとは思えない。
純は、父親の影響で、芸能界がきらびやかなだけではないことを知っている。
世間からの評価、陰口や暴言、怒鳴り声に耐えられるほどのメンタルは、持ち合わせていない。
「俺、レッスン生じゃないし。ダンスも歌もできないし、性格も明るくないから……。アイドルとして一緒に行動しながらっていうのは、絶対に無理です……」
首を振ってまで断っているのに、社長は全然引き下がるようすを見せない。
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