断りたいスカウト

5/9
前へ
/193ページ
次へ
「大丈夫よ。あなたに歌のパートは求めないし、ダンスも難易度を下げて、いちから教えるようにする。学校行事やテスト勉強を優先しても構わないから」  社長が力説するたびに、純の顔色は悪くなっていく。  何とも言えない不快感に、胃液が込み上げそうだ。 「グループ名はイノセンスギフト。純真無垢(じゅんしんむく)な才能の集まりって意味を込めてるの。メンバーは下積みを続けてきた子たちでね、純ちゃんと年齢が近いから、すぐ仲良くなれると思うわ」  社長は、アイドルのプロデュース(このプロジェクト)に賭けている。  だとしても、うなずくことはできない。  自身がアイドルとして成功している未来が、どうしても視えないからだ。 「ごめんね、純ちゃん」  社長は申し訳なさげに眉尻を下げる。 「いきなり言われても困るわよね。あなたを利用することになるんだもの。不安になって当然よ。でも、わたしにはどうしても、あなたの力が必要なの」 「俺には、芸能界で通用する才能は、ないはずです。パパやママのようなものはなにも」 「でも、こうなった以上、私はあなたをアイドルにしなきゃいけないの」 「せめて、考える時間をいただけませんか? 簡単に答えられるようなことじゃないですし……」  厳しい顔つきになった社長は、首を振る。 「ごめんなさい、純ちゃん。その時間もあげられないの。デビュー会見の日程がもう決まってるから、すぐにでも準備に取り掛かってほしいくらい」
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加