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「大丈夫よ。あなたに歌のパートは求めないし、ダンスも難易度を下げて、いちから教えるようにする。学校行事やテスト勉強を優先しても構わないから」
社長が力説するたびに、純の顔色は悪くなっていく。
何とも言えない不快感に、胃液が込み上げそうだ。
「グループ名はイノセンスギフト。純真無垢な才能の集まりって意味を込めてるの。メンバーは下積みを続けてきた子たちでね、純ちゃんと年齢が近いから、すぐ仲良くなれると思うわ」
社長は、アイドルのプロデュースに賭けている。
だとしても、うなずくことはできない。
自身がアイドルとして成功している未来が、どうしても視えないからだ。
「ごめんね、純ちゃん」
社長は申し訳なさげに眉尻を下げる。
「いきなり言われても困るわよね。あなたを利用することになるんだもの。不安になって当然よ。でも、わたしにはどうしても、あなたの力が必要なの」
「俺には、芸能界で通用する才能は、ないはずです。パパやママのようなものはなにも」
「でも、こうなった以上、私はあなたをアイドルにしなきゃいけないの」
「せめて、考える時間をいただけませんか? 簡単に答えられるようなことじゃないですし……」
厳しい顔つきになった社長は、首を振る。
「ごめんなさい、純ちゃん。その時間もあげられないの。デビュー会見の日程がもう決まってるから、すぐにでも準備に取り掛かってほしいくらい」
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