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「そんな……」
ほんの一瞬、社長の目が、泳いだ。
「もしかして、お父さんが心配? それについては私のほうから説明するから大丈夫よ」
声に、雑念が混ざっている。
「安心して。あなたはアイドルグループのことだけを考えてくれたらいい。お父さんのことは、私たちが、今まで以上にフォローするから」
かすかな思考を、純は読み取った。
星乃恵が交渉材料に使われる。使おうとしている。使えると、思っている。
「それに、同じ事務所だから顔を合わせることだって多くなるでしょう? 今までよりもかかわる時間が増えるんじゃない?」
これ以上断るようなことを言えば、さりげなく父親を出し続け、断れない状況に持っていくはずだ。
「やめてください」
その声は、感情がこもっていなかった。社長を見すえる純の顔は、能面のように冷えきっている。
がらりと変わった純の雰囲気に、社長は地雷を踏んだことに気づいた。
「ごめんなさいね。決してそんなつもりじゃなくて」
「いいえ。俺を脅すには一番いい方法です。両親をダシにされたら、動かないわけにはいきませんから」
この世界はちょっとしたことがきっかけで仕事量が変わる。フローリアミュージックプロダクションほどの大手事務所であれば、星乃恵と美浜妃の印象を悪くすることは難しくない。
純は目を伏せ、口元にこぶしを当てた。純の行動によって両親の未来がどのように変化していくのか、頭の中で予測を繰り返す。
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