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感情任せの怒鳴り声は、純の心臓をぎゅっと捕む。純が直接言われているわけではないが、耳にするだけで息苦しい。
「もっとしっかり踊れ! 笑顔が消えてんだ、笑顔がよぉ! 」
熱い怒り。挑発的な期待。少年少女たちを選別しようとする残酷さ。
「このグズが! デビューしたいならもっと完璧に踊り切れ! 足とめてんじゃねえ!」
あそこで練習しているレッスン生のうち、デビューできるのは一握りだ。血のにじむような努力をしようが、どうしても報われない者が出てくる。
見下される怒鳴り声と、不確定な未来の不安に耐えてまで芸能界に固執する気持ちが、純にはわからなかった。
「……純、大丈夫か?」
エレベーターの前に立つ恵が振り返る。
「ああ、うん。大丈夫。少しびっくりしただけ」
純はほほ笑みながら、震える指先を背中に隠した。
「そうか。早く会議室のほう行こうな」
恵がエレベーターのボタンを、押したときだった。
「あれ、恵さんじゃないすか! 」
エレベーター横の階段から、大人数で降りてくる足音が響いた。恵が明るい声で返す。
「ああ、おまえらか。おはよう」
階段から降りて近づいてきたのは、長年活躍しているバンドグループ、「プラネット」だ。
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