すべては親のために

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 ベースの斎藤(さいとう)が気を遣い、話しかけてきた。純は鼻から手を離し、ほほ笑む。 「はい。前回お会いしたときより身長伸びましたから」 「だよな? もう、父ちゃんと同じくらいなんじゃねえの?」  斎藤は自分の身長と純の身長を手で比べていた。純のほうが数センチ高い。 「イケメンだし、女子からもモテるだろ?」 「そんなことは……」 「芸能人になるのは考えてねえの?」  純の返事が、止まった。嫌な沈黙が流れる。  なんと答えようか考えあぐねていると、角田が斎藤に肘をつき、ふざける口調でつっこんだ。 「なーに言ってんだよ。そんなうまくいく世界じゃねえっつーの」  その流れに、恵が乗った。 「そうそう。変なこと吹き込むなよ。純には公務員になってほしいんだから」 「ええ? 公務員っすか? あの星乃恵の息子が?」  プラネットのメンバーたちは、声を上げて笑う。角田が純の肩に手を置いた。 「まあ、確かに、純が勉強できるタイプなら、それもアリだな」 「ですね。俺はあまり……芸能界のことは考えてなくて」  純の視線がプラネットの背後に向かう。そこにひかえていたスタッフが、プラネットにそろそろ移動するよう声をかけた。  メンバーたちは恵に会釈して、スタッフとともに裏口へ向かっていく。その姿を見送った恵は、となりにいる純に視線を向けた。 「疲れただろ? ごめんな無理させて」  純はプラネットが去ったほうを向いたまま、顔から感情を消していた。疲れきった小さい声で返す。 「あの人」 「なに? 」 「あの黒髪の人」
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