すべては親のために

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 五人いるメンバーのなかで、一人だけ、黒髪で長髪のメンバーがいた。さっきの会話では一言もしゃべっていない。 「ああ、キーボードの茂木(もぎ)ね。茂木がどうした? 」 「目が、変だった」  恵は首をかしげる。 「そうだったか? 」 「笑ってたけど、笑ってなかった。……いつもとは違うにおいもした」  純は鼻を手で押さえ、目を伏せる。 「女か? 」 「多分違う。女性ものの香水の匂いじゃない。……変なにおい。薬草みたいな」  純が茂木の瞳から感じとったのは、虚無と、病。本能で感じ取れる、危うさ。 「うーん……俺にはわからなかったけどなぁ」 「気をつけてね、パパ。巻き込まれないように」 「それは、共演を控えたほうがいいってことか?」  真剣な顔で尋ねる恵に、純は言葉を選ぶ。 「うん。控えたほうがいい、と思う。それしかできない。それしか、してあげられない」  純の頭に、恵の手が乗る。わしゃわしゃと、赤毛を乱していった。 「裏で声をかけるのはいいのか?」 「それは、いいんじゃない? ……どうにもならないと思うけど」  その言葉を否定するかのように、頭に乗った手がますます髪をぐちゃぐちゃにする。なんとも言えない複雑な感情が、その手をとおして伝わってきた。  恵は短く息をつき、手を離す。 「あいつらが、ねぇ。悔しいけど、おまえのそれはあたるからな」  純に背を向け、エレベーターのボタンを再び押した。すでに到着しており、扉が開く。  中に入る恵に続き、純が一歩、踏み出した。 「ありがとうございましたー! 」  張り裂けんばかりの声に、体が固まる。
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