すべては親のために

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 稽古場のドアから、たくさんのレッスン生が飛び出てきた。着替えるものは更衣室へ、そのまま帰るものは純の後ろを通り、エントランスへと向かっていく。  褒められた優越感。怒られたあとの機嫌の悪さ。いつまでもデビューできない焦り、イラ立ち、見下し、嫉妬、自己顕示欲……。  それらがとにかくぐちゃぐちゃに混ざり合い、容赦なく純の背中に突き刺さってきた。  息苦しいのを我慢しながら足を動かし、恵が待つエレベーターに乗り込んだ。扉が閉まると、外でただよう感情は遮断される。  上に向かっていくエレベーターの中、純は息をつき、ボタン上にあるパネルに顔を向けた。表示される数字が順に上がっていくのを眺める。 「ごめんな。俺が連れて来たばかりに」  ボタンの前に立つ恵は、眉尻を下げて純を見すえていた。純は思い出したように笑みを浮かべる。 「え? ああ、大丈夫だよ。こんなのいつものことだし」  黒い感情と怒声に満ちているこの事務所が、ほんとうは大嫌いだった。  建前の裏にある本音。キレイな顔の裏にある醜い思考。いくら清廉潔白な言葉で取りつくろおうにも、隠された欲望や悪意を純は見つけてしまう。  父親が芸能人でなければ――そんな父親が大好きでなければ、わざわざこんなところに来たりはしない。  純は、自分の能力で親を支えるためだけに、ここにいる。
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