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「まだいたのか?しつこくつきまとうなら警察を呼ぶぞ」
よしずみさんが声を荒げた。
「事件が起きないと警察は動かない。赤の他人であるあなた方にとやかく言われる筋合いはない」
「それなら咲良ちゃんを私たちの養子に迎えるわ。それなら赤の他人じゃないでしょう」
「は?」
乙葉さんの言葉に安藤さんの声色がガラリと変わった。
「嘘だと思うでしょう。私たちは本気よ」
乙葉さんはまったく動じなかった。安藤さんは舌打ちすると、そそくさと歩きだした。
「乙葉さんどうして、そこまで僕のこと……」
「それはね。咲良ちゃん、ちょっと耳を借りるわね」
ふふっと悪戯っぽく笑うと、耳元で囁かれた。顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。
「姉さん、柚木さんをからかうな」
「からかってないわよ。これも何かの縁だろうし、よし、決めた」
「まさか本気で柚木さんを養子にする気か?」
「だって、あんな胡散臭い弁護士に咲良ちゃんの人生を任せるなんて出来ないわよ。上から目線で、傲慢で。咲良ちゃんが不幸になるのが目に見えてるわ。それにこの名前、どこかで聞いたことがあるのよね」
乙葉さんが見ているのは安藤さんから渡された名刺だ。
「調べてみるか?」
「いいの?忙しいんじゃないの?」
「暇人だからいいんだ。預かるよ」
よしずみさんから何かを渡された。
指でなぞると、点字で数字が並んでいた。
「駅前交番の電話番号だ。覚えておいて損はない」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた。
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