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うとうとしていたら、トントンと遠慮がちにノックをする音が聞こえてきた。
「柚木という男が泊まっているはずだ。会わせろと男性がフロントに来ているの。そんな人はいないと言っても全然取り合ってくれなくて。警察を呼びますと言ったら、身内の揉め事だ。民事不介入だ。電話するだけ無駄だ。小難しいことを矢継ぎ早に言われて」
「女将さん、その人はまだフロントにいますか?」
「柚木に会うまでここにいると居座っているわ」
「そうですか」
よしずみさんに渡されたメモ紙をポケットから取り出した。女将さんにこれ以上迷惑をかける訳にはいかないし、紹介してくれたよしずみさんの顔にも泥を塗ることになってしまう。
女将さんにすみませんでしたと一言謝ってからスマホをリュックサックの前ポケット取り出した。
音声読み上げ機能を使い、教えもらった番号に電話を掛けた。
「駅前交番ですか?」
ーいや、違うが。もしかしてよしずみが言っていた子か?柚木さんか?ー
ゆっくりと話す声が聞こえきた。
「はい。そうです」
ーよしずみとは古い友だちだ。警察署の捜査3課のいとだだ。何があった?ー
「あ、あの……」
一瞬躊躇したけど正直に包み隠さず話した。
ー分かった。部下をすぐにそっちに向かわせる。柚木さんは部屋から絶対に出ないように。いいねー
「はい。分かりました」
よしずみさんを決して疑うわけじゃないけど、いとださんという人が本当に刑事なのか電話を切っても半信半疑だった。
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