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「ごめん、咲良さん。ゆっくり歩かないと躓いて転ぶよね」
「ううん。大丈夫」
首を横に振った。
「なんとなく隙のない、しんの冷たい男のような気がして。ほら、あれだ」
「あれ?」
首を傾げた。
「人の良さそうな温和な顔をしていて、心は氷のようにきつい。咲良さんが目が見えないをいいことに、優しい言葉を掛けて騙そうとしているんじゃないかって。気のせいかも知れないけど、俺にはそう感じた」
「ゆのくんがそう感じたなら、僕はゆのくんを信じる。一人だったらどうなっていたか。怖い」
そのとき寒くもないのにぞくぞくと背筋が震えた。
「ちょっと待ってて」
「ゆのくん?」
「母さんに電話をして迎えに来てもらおう。嫌な予感がするんだ」
「忙しいし、悪いよ」
「大丈夫。今日休みだから」
ゆのくんの両親は蕎麦やさんをしている。月曜日定休日で、週末だけは夜も営業するけど、それ以外はランチのみ。
ーあら珍しいわね。陽向のほうから電話が掛かってくるなんて。もしかして咲良ちゃんに何かあった?ー
「母さん、声がデカイ。病院だからもう少し静かにしてくれ」
ーあら、そうなの?ごめんねー
「すぐ病院に来れる?咲良さんにつきまとう変な男がいるんだ」
ーそれは一大事じゃないの。すぐ行くー
「母さん、急がなくてもいいよ。くれぐれも……」
ぶちっと電話が一方的に切れた。
「なんで話しているのに途中で切るかな?事故にだけは気を付けてって言おうと思ったんだけど。母さん、咲良さんのことになると人が変わるんだよね」
ゆのくんが困ったように苦笑いを浮かべた。
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