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最初に<妖精界の長老>が、花柄のベレー帽に変化した。せっせとパンとジャムを籠に詰めていた子供だちだった。
彼等は言った。
――穏やかな陽だまりと健やかな風が、幸福を導きますように――
次は、<不浄界の筆頭>が、赤いベレー帽に変化した。便器を爆発させ、腐乱死体の山を築いた者たちであった。
彼等は言った。
――不浄の上に国は成らず。死と不幸をもたらす火の薬は土と砂に変え給え。刀剣も然り、枝葉に変え給う――
三番目は、<暗黒界の支配者>が、黒いベレー帽に変化した。コンピュータをハッキングし、核弾頭の弾頭をジャガイモにすり替え、ブラックアウトを
自在に扱う集団であった。
彼等は言った。
――闇の中では、国も人々も闇に翻弄され、希望ですら漆黒に塗れるであろう。闇を畏れ、敬え――
そして、<時空の創始者>は、集ったベレー帽たちを見渡した。かれは、<妖精の長老>、<不浄界の筆頭>、<暗黒界の支配者>を集結させた主格であった。主格は言った。
――地球では、ひとつの節目を経て次の過程へ旅立つことを、卒業というそうだ。今回の試練が節目となり、地球の人々のためになってくれると良いのだが――
集結した異形者たちは、地球の青い光を眺めた。彼等に眼はない。しかし情景はくっきりと把握できた。
どうやら喧嘩をしている場合でないと、悟ったようだ。
ベレー帽の集団が揺れた。それは微笑みのようなものかもしれない。
その時、地球から見た木星は少しだけ明るくなったのだが、気づいた者は誰もいなかった。
おしまい
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