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R共和国地上軍の一個中隊を率いるトレンコフスキー大尉は、グリッド線モニターを見ながら空爆地点の座標を読み上げた。
「1258、1790、2600、3034・・・繰り返す。1258、1790、2600、3034」
二秒ほどの間があって、受信機が反応した。
――こちら第85空挺団、座標を確認した。投爆を開始する――
ほどなくしてトレンコフスキー中隊の頭上を一機の爆撃機が通過していった。
部隊は小高い丘の上から散開していた。眼下にはB国ポリポリ地区の街並みが見渡せた。
大尉は双眼鏡を覗いた。
爆撃指示を出した座標は、ポリポリ地区の学校や病院、スーパー、警察署である。B国軍との市街戦になった場合、有利に展開するためには予め空爆をして叩いておく事が必要だった。非武装の一般市民を巻き込むことになるが、戦争とはそういうものだ。
爆撃機がクラスター爆弾を投下した。
本体の大型爆弾から小型爆弾がバラバラに散りながら落下していく。爆弾が大気を切り裂いていく不気味な音が、大尉の耳にも届いた。無数に散らばった小型爆弾は建物を粉砕し、人間を殺す。
大尉は声に出してカウントした。
「三、二、一。ボム!」
紅蓮の火柱が・・・
「おい、ウソだろ」
大尉をはじめ側近たちは目を疑い、耳を疑った。
爆発音がない。焔も煙も立ち昇らなかったのだ。街並みはそのままだった。
不発弾か?
大尉は無線機に向かって怒鳴った。
「おい、どうなってるんだ? もう一度爆撃しろ!」
――了解した。再度、投下する――
再び、爆撃機は爆弾を落とした。
またもや不発だった。
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