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私は、レンさんが何かを熱心に読んでいる様子なので、邪魔にならないかを心配しつつ、そっと挨拶した。しかし、彼は私の声にすぐ反応し、にこやかに言ってくれた。
「ああ、おはよう。悪いな、早く来てもらって」
「いいえ、それは大丈夫です。で、今日は何か?」
「『やおよろず』で働いてもらうに当たって、お前も知っておいてもらわないといけないことを、まだ教えていなかったんでな」
「はあ……」
「四十九日が済むのを待ってからでないと、ダメだったんだ」
「どういうことですか?」
「ウチの店長のことなんだが」
店長。
以前、彗くんが言っていたこと?
「ウチの店長は、あの神棚なんだ」
レンさんがそう言って、自分の頭の真上を指差した。私は彼の指先を目で追う。
小さな白木の神棚らしきものが、壁に取り付けられている。
その存在には最初から気づいていたけれど、飲食店や宿泊施設などの接客商売なら、どこにでもありそうなので、特に意識していなかった。
「あれが店長?」
「正確には、ウチの守り神」
レンさんは、いつもの微笑みを浮かべて言った。
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