1. 黄昏時の商店街で

2/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 私たちが入口に近づくと、掲示物で覆い尽くされた自動ドアが開き、奥に細長い店舗の全貌が見えた。  ビデオが陳列された棚は何処にもなく、ベルが置かれたカウンターがぽつんとあるだけ。ちゃんと営業しているのだろうか?  「すみませーん」  私がきょろきょろと店内を見回していると、祐子はベルを鳴らして店員を呼んだ。  カウンターの中にはカーテンがあり、その奥がスタッフルームのようだったが、誰も出て来る気配がない。  「もう帰ろう」  「えー? もうちょっと待ってみようよ」  私が帰ろうと誘っても祐子は動きたがらない。  バイトまでの時間は大丈夫だろうか? 時計を探したが、店内には見当たらない。  スマートフォンを取り出して画面を見ようとすると、祐子は私の肩に手を置いて言った。  「時間ならあと10分は余裕があるわよ。もし不安なら先に帰ったら」  「いいや、ここまで待ったんだから店の人が出て来るまでは居るわよ」  私は時間が許すギリギリまで待つことにした。一体何の店なのか、私も気になったのだ。  ベルの音に気づいていないだけかもしれないと思い、念のためもう一回ベルを鳴らそうと手を伸ばすと、指が触れる前にカーテンの奥から老年の男性が姿を現した。  「いらっしゃい」  「あの……ここって何のお店なんですか?」  祐子は店主と思しき男性に尋ねた。  「ここは簡単に言えば人材レンタルの店だよ。出ておいで、ヒデオ!」  店主が後ろを向いて声を張り上げると、カーテンの向こうから一人の青年が出てきた。  歳は20から30の間くらいだろうか。身長は高くもなく低くもなく、中肉中背。顔はこれといって特徴がないことが特徴の、絵に描いたような平均顔だ。そして、恐らく初対面なのにどこかで既に会っているかのような親近感を感じる。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!