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1. 黄昏時の商店街で
18時のチャイムが鳴り響く夕暮れ、私は自転車を押しながら商店街を歩いていた。
隣を歩く祐子は、両手が塞がっている私が口を開けると、爪楊枝で刺したたこ焼きを絶妙なタイミングで放り込んでくれる。
クラスは隣のそのまた隣、美術部で初めて知り合った彼女は、今では私と阿吽の呼吸でやりとりをするくらいに親しい友人だ。
最後の一個がなくなる頃、いつも私たちは駅前で別れてそれぞれの生活へと向かう。祐子は電車に乗って巷で評判の進学塾へ、私は自転車でハンバーガーショップのアルバイトへ。
そして今、彼女の手元にはたこ焼きが残りあと二個。今日も、いつもと変わらない日常の風景が繰り返されるーーはずだった。
「あれ? あんなお店今まであったっけ?」
視界の片隅に映り込んだのは、年季の入った店構えが立ち並ぶ中で一際異彩を放つ新品の看板だった。どうやら新しくできた店らしい。
「本当だ、"レンタルヒデオ"って書いてあるよ。ヒデオって何だろ?」
「祐子ったら何言ってんの? ビデオよ、ビデオ」
まさか祐子はビデオというものを知らないのだろうか? まあ、私たちの世代なら知らなくても不思議ではないのかもしれない。
今時ビデオを再生する機器なんて持っていない家庭のほうがが多いだろうし、今更レンタルビデオショップなんて開店して儲かるのだろうか?
「ねえ明菜、私ビデオくらい知ってるわよ! それにあの看板の文字、ビじゃなくてヒよ」
ビデオを知らない子呼ばわりされて怒った祐子は、看板の文字を指差した。
「え? ウソ……」
確かにそこには「レンタルヒデオ」と書かれている。
「ヒデオって何だろ? 面白そうだし入ってみようよ」
「えー? どうせただの誤字だよ。でも、親切に教えてあげるのもいいか」
私は興味津々な祐子の勢いに押され、一緒にレンタルヒデオ店に入ることにした。
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