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規則正しく並んだ杉の木を横目に白いワゴン車が緩やかなカーブをゆっくりと走り抜けていった。視線の高さに生えた草木は風に揺られ,柔らかそうな春の若葉がくるくると色を変えた。
ハンドルを握る武志が春の風を感じようとほんの僅かに窓を開けた瞬間,助手席に座る桃香が慌てて顔を押さえ,辛そうに大きなくしゃみを繰り返した。
心地よい風が開け放った窓から一気に吹き込むと,武志の頬を撫でるようにして車内で渦を巻いているような気がした。
「武志! 窓閉めて!」
後部座席に座る華が口元を押さえて大声で武志に大声で言ったが,助手席の桃香はすでにくしゃみと鼻水が止まらなくなり,華もつられるように大きなくしゃみを繰り返した。
慌てて窓を閉めたが,既に車内には十分すぎるほどの花粉が舞い込み,桃香と華は苦しそうに顔を押さえてくしゃみを繰り返した。
「武志,お前,それはヤバイって……」
華の横で武志の愚行を責めるように嘉晃が呟き,苦しそうにする華にティッシュを渡しては鼻をかんだティッシュを回収してゴミ入れとして使っているコンビニ袋に入れた。
「マジでごめん。2人とも酷い花粉症だったな……くしゃみしてないし大丈夫かと思って……」
「お前,自分の彼女が花粉症なことくらい知ってるだろ……」
「マジでごめん……」
助手席で苦しむ桃香の様子をわき目で見ながらハンドルを握る手に力が入った。
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