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コロナ禍で満足な大学生活を送れなかった武志が彼女の桃香を誘って卒業旅行に行こうと言い出したのが,ほんの二週間ほど前だった。
最初は二人だけの旅行を計画したのだが,同じゼミでサークルも一緒の嘉晃が話を聞きつけ,嘉晃の彼女の華と四人で温泉旅行に行くことが決まった。
四人ならと武志は実家から車を借りて,比較的近場の想い出のある温泉街に行くことにした。
そこは四人が新入生として大学に入学し,同じサークルに入った武志と嘉晃の新人歓迎会を兼ねた合宿が行われた場所であった。桃香と華はそれぞれ違うサークルに入っていたが,どのサークルも大学の保養施設として使用している建物が温泉街の一角にあった。これまでは常にサークルや部活の合宿に使用されていた建物だが,コロナ禍のせいでその年の新歓以来,施設は閉鎖され,サークルや部活はほぼ活動休止になっていた。
当時,四人が入ったそれぞれのサークルもこの施設が部活の合宿に使用される前にそこで新歓合宿を行うのが定例になっていた。目的が新歓ということであったが,実態は合宿という名の飲み会で,そこで初めて異性との肉体関係を経験する学生が数多くいた。
桃華と華は知らなかったが,武志と嘉晃もその合宿で初めて異性を知り,その時2人の相手をしたのが同じ新入生の櫻子だった。
車の窓を閉め,エアコンをつけて車内を換気しながら冷やすと桃香と華が少し落ち着き,充血した目で窓を開けた武志を責めた。
「ほんと,ごめん。ずっとくしゃみ出てなかったから,薬が効いてるっていうか,花粉症大丈夫なのかと思って忘れてた……」
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