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2人は杉林の中を走って行く車の中で不機嫌になったが,嘉晃のくだらない冗談で気分が紛れたのと,せっかくの卒業旅行を台無しにしたくなかったので武志のことをこれ以上責めることをやめた。
「武志,お前,昼飯奢れよ」
「ああ……それで許して……」
「許してやるけど,お前マジで色々気をつけろよな」
車が細い脇道へと入って行くと,舗装された部分と砂利の部分が交互に現れ,減速しないと事故を起こしそうな荒れた道路が続いた。
やがて車が減速し,ゆっくりと下り坂に入ると,突然開けた場所に古い小学校のような建物が現れた。不必要なほど広い駐車場に車を停めると,武志が車を降りて大学の事務から預かった鍵を持って建物の裏手にあるドアから中に入った。
しばらくして内側から正面玄関が開けられると,三人は手荷物を持って車から降りた。管理会社が定期的に清掃やメンテナンスを行っているので,片付いたロビーを抜けてフロントになっているところでそれぞれが割り振られた部屋の鍵を手にした。
「みんな,個人個人の部屋を用意してあるから。嘉晃と華はどうせ一緒に部屋を使うだろうけど,一応みんなに鍵を渡しとくんで」
武志と嘉晃は隣同士で,桃香と華は一つ上のフロアだった。学校のような無機質な階段を上がり男たちが廊下を歩いていくと,桃香と華はさらに上の階にある自分たちの部屋へと向かった。
「なぁ,武志。ちょっといいか。あいつらがいないから聞くけど,なんでここを選んだんだ?」
「え? なにが?」
「なにがじゃねぇよ。お前,ここって俺らが一年の時にやった新歓で櫻子と色々あった場所じゃねぇか」
「ああ……あいつか……」
「新歓合宿で,先輩たちの前で俺たち一年に輪わされて,あいつ,その後大学辞めちゃったじゃん。それ以来,誰もあいつのことを見ていないし,どこで,なにをやってるかも知らないんだよ。お前がここを選んだとき,なんかヤバイ感じがしたんだよな……」
「ヤバイ感じ?」
嘉晃は爪を噛みながら,廊下にある古い銀色の窓枠についた小さな鍵を開け,ガタガタと音を立てながら窓を開けた。
「櫻子,自殺したって噂を聞いたんだよ。ここで犯された後,メンタルやられて,マッチングアプリにハマって,パパ活やって,最後は風呂のなかで手首切って死んだって……」
「誰だよ……そんな噂流してんの……。ってか,なんで窓開けてんだよ」
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